初夏に差し掛かると、結婚式やパーティーなど、人前で歌を披露する機会が多くなります。
普段からライブ活動をされている方は勿論のこと、
そういった突然の機会に、どう準備をすれば良いのかお悩みの方のために、
今回はお話をしたいと思います。
過去のコラムでも何度か書いてきましたが、
歌うためには身体を楽器にする必要があります。
歌うことが決まったら、最低でも1~2ヶ月前から、その楽器を準備せねばなりません。
質の良い睡眠を心がけたり、体力向上のための身体づくりは勿論ですが、
身体や喉に良いものを摂取したり、
反対に、悪いものは極力控える、ということも大変効果があります。
「喉に悪いもの」というのは皆さん大体想像がつくのではないでしょうか。
お酒、タバコや、コーヒーなどのカフェインです。
これらには利尿作用があるため、体内の水分を排出されやすくし、血中にある水分を奪います。
身体の水分が奪われると、常に濡れているべき身体の粘膜の部分が乾燥します。
イコール、声帯も乾燥してしまうということです。
乾燥した声帯で歌うと、つややかな声が出ないだけでなく、
声帯そのものを傷めてしまう原因にもなりますので、注意せねばなりません。
反対に「喉に良いもの」とは何でしょうか。
喉に一番良い飲み物は、常温の水です。
約2リットルの水を一日かけて摂取していくと、
体内の水分を循環させ、声帯を常に湿った状態にしておくことが出来ると言われています。
これは是非、積極的に摂取して行きましょう。
また、大根や梨などの食材も喉に良い成分が含まれており、飲み物では紅茶も大変効果的です。
風邪をひいてしまい、喉の不調を感じる時には、
耳鼻咽喉科にあるような吸入器が、一番効果が期待出来ます。
私のスクールも、加湿器で常に湿度を保っています。
加湿器がご自宅にない方は、お風呂で湯船にお湯を張って、その湯気(水蒸気)を吸いこむことでも同じ効果が期待出来ますので、
喉の不調を感じた時には、一度試されてみてください。
また、普段はさほど控える必要がないけれど、
歌う直前には摂取を控えた方が良い、というものもあります。
牛乳などの乳製品:
牛乳の中に含まれるカゼインというたんぱく質は、唾液と交わると凝固します。
これが痰をからみやすくし、声帯の繊細な動きを邪魔すると言われています。
ナッツ類:
口腔内に残ったカケラを気管に吸い込んでしまう可能性があります。
少なくとも歌う前日から、摂取を控えた方が良いでしょう。
魚:
骨が喉に刺さる可能性があるため、これも前日から摂取を控えた方が賢明です。
また、骨が刺さった時に、
「ごはんを丸のみして骨を下に落とす」のは絶対にやめて下さい。返って喉を傷めます。
もし骨が刺さってしまったら、病院へ行きましょう。
そうやって身体を整えたら、歌う当日にも気を付けたいことがいくつかあります。
まず、朝は余裕を持って起きて下さい。
起きてすぐに発声はせず、朝日をしっかりと浴び朝食を採って、身体を目覚めさせます。
朝食後一時間ほど経ったら、ゆっくりと身体を動かし始めましょう。
実際に発声を始めるのは、少なくとも起きてから二時間後以降が良いかと思います。
外出の際は、マスクを着用すると効果的です。
これは、乾燥を防ぐ効果があるだけでなく、
マスク内に侵入しようとする菌やウィルスも、マスク内の湿度と温度で死滅するものが多いと言われているためです。
また、私個人的には、のど飴はほとんど舐めません。
唾液で溶けた飴の成分が、声帯にあるべき必要な成分まで流してしまうためであり、
食べ過ぎると、返って喉に悪影響を及ぼすこともあるからです。
「歌うために、こんなに気をつけなければならないの?」
と思われた方もいるでしょうか。
歌は、身体を楽器として奏でる音楽です。
良い音楽を演奏したいと思った時、
その楽器に細心の注意を払ってメンテナンスをするように、
シンガーにとっての楽器である自分の身体や声帯も、
常日頃からメンテナンスしておく必要があります。
たとえ、そのステージで歌うのがたった一曲であったとしてもです。
たかが一曲。されど一曲です。
せっかくのその機会、皆さんがご自身のベストの歌を歌えるよう、
このコラムをお役立て下さればと思います。